ジルコニアって?
歯科技工士が答える材料のはなし
最近ジルコニアってよく聞きます。
「材料の事は歯科技工士に聞け!?」
歯科で使われる材料のことを一番よく知っているのは、実は歯科技工士です。
それは私達歯科技工士が、毎日毎日、いろいろな材料を使って差し歯や入れ歯を作っているからです。
患者様の歯や噛み合わせはみな個性があって、一つとして同じものはありません。その一つ一つに合わせてオーダーメイドで最善の差し歯や入れ歯を作るのが歯科技工士です。
そうして毎日たくさんの材料に触れて、その性能を引き出す取り組みを続けていると、それぞれの材料の特徴がわかってくるのです。
ジルコニアはセラミックスの仲間です
ジルコニアはセラミックスの一種で、身近にある物の中ではお茶碗などの仲間で、性質や触った感じも似ています。しかしお茶碗などより遥かに割れにくく頑丈です。
ジルコニアはジルコニウムの酸化物で二酸化ジルコニウム(ZrO₂)の通称です。常態では白色の個体で融点が2,700℃と高く、熱に強いので耐熱性セラミックスとして利用されているほか、割れにくい性質や、削れにくい性質、そして溶け出さない耐薬品性を生かして機械部品や医療部品に利用されています。
歯科で利用されるのはこのジルコニアにイットリウムを添加して結晶構造を安定化した安定化ジルコニア(Y-TPZ)で、無添加のジルコニアよりもさらに強度と靭性に優れ、大変丈夫です。そして高い光透過性も持つので、見かけが天然の歯に似ていて、歯科材料として理想的な性質を持っています。
ジルコニアの3つの特徴
01
口の中で変化しない安全性
02
優れた耐久性
03
天然歯に近い自然な白さ
金属アレルギーが心配な方
「口の中で変化しない安全性」
口の中は細菌が作り出した酸が存在し虫歯の原因になります。この酸は口の中の差し歯にも作用し、金属を使用した差し歯は表面が劣化したり、部分的に溶け出したりします。
セラミックスとは金属の錆びの成れの果てなので、これ以上錆びることがありません。つまり口に中で劣化したり、溶け出したりすることが少ない(1.0~4.5㎍/㎠)、非常に安全な物質です。
また口の中に差し歯や詰め物によって違う種類の金属がある場合も金属が溶け出す場合があります。
金属の詰め物がある歯で銀紙を噛んだらビリッとした、という経験はないでしょうか。それは唾液が電解質の溶液なので、唾液中に銀紙と詰め物という異なった種類の金属が存在すると、金属の電位差によって電流が流れるからです。この電位差があると口の中の金属は少しずつイオン化し、溶け出していきます。
ジルコニアは金属ではないので、口の中に他に金属があってもこのような現象を起こしません。
また良く研磨されたジルコニアは水をはじくのでプラークが付着せず、お茶などで着色もしません。また吸水もしないので臭いの原因になりません。
白い歯を長持ちさせたい方
「強さと硬さがもたらす優れた耐久性」
差し歯には咀嚼する際に、繰り返し繰り返し噛み合わせの力が加わります。この力は奥歯1本で30㎏にもなり、何年もそれに耐えなければいけません。私達歯科技工士がこれまでずっと金属を使って差し歯を作ってきたのは、この咬合力に耐える材料が他になかったからです。
セラミックスの丈夫さは曲げ強さ(MPa)という単位で表します。ジルコニアの曲げ強さは1,000MPaを越え、従来のセラミックスの3倍から10倍の数値を持っています。ジルコニアは日本では2005年から使われ始めた比較的新しい材料ですが、10年以上の実績を持つ症例も珍しくなく、金属で作られた差し歯と同等の耐久性があることが分かっています。
また丈夫さということでは表面の硬さも重要です。この硬さが低いと、歯磨きや咀嚼によって少しずつ磨り減っていきます。保険診療で使用される材料にもCAD/CAM冠や硬質レジンといった「白い」材料がありますが、ジルコニアとの最大の差はこの硬さを含めた耐久性にあります。表面の硬さはビッカース硬度で表され、ジルコニアは1,300HVもの数値があり、保険診療で使用される硬質レジンの10倍以上の硬さがあります。
金属やレジンを使った差し歯に違和感を感じる方
「天然歯に近い自然な白さー優れた審美性」
ジルコニアは材質そのものの色が白色で人の歯の色調に近いのが特長です。
またジルコニアは金属と違って光を通す光透過性という性質を持ちます。これのおかげで金属のように口の中で影を作らないので、歯ぐきに接する部分が黒っぽくなりません。
そしてこれは歯科技工士の机の上でのことなのですが、イオン浸透液や金属酸化物を使ったステイニング、そしてポーセレン築盛によるキャラクタライズといった色や形に手を加える材料やテクニックが豊富に存在するのもジルコニアの優れた点です。
人の歯の色や形、そして噛み合わせには個性があって、ひとつとして同じものはありません。患者様のお口に調和した差し歯を作るにはこの「歯の個性」を再現して歯らしさを持つことが大切です。
ジルコニアは元々の白さに加えて、金属という天然歯からかけ離れた材料を使うという制約もなく、さらに歯科技工士が使える加工のテクニックの多さで、歯の個性の再現を行いやすいのです。
ここで実際の使用例を見てみましょう。
ジルコニアの使用例その1
この症例では歯列で一番前にある中切歯のうち写真の左側の歯をジルコニアを使った差し歯で修復しました。
この場合は隣に患者様の本物の歯があるので、色も形もそっくりに作らないと差し歯は歯列から浮き上がって見え、かなり目立ってしまいます。
色々な着色剤で患者様の歯の個性を再現したジルコニアの差し歯は、光透過性があるために歯ぐきに接する部分も黒くならず、一見して治療したことがわからない程、お口に調和しています。
ジルコニアの使用例その2
この症例では前歯3本をジルコニアを使って修復しています。
真ん中の歯が抜けてしまっているので、この部分に歯が生えているように見せる必要があります。そこで3本の歯がつながったブリッジと呼ばれるジルコニアを製作しました。
ブリッジは折れてしまわないようにかなりの強さが要求されますがジルコニアは十分それに耐えます。